社内システムが属人化したまま担当者が退職したときの初動
社内の業務システムを1人で見ていた方が辞めることになった。あるいは、もう辞めてしまった。資料はなく、その人しか触れなかった。それでもシステムは毎日動いている。
この状況で最も多い失敗は、「とりあえず中身を理解しよう」として時間を使い、その間に肝心なものを失うことです。優先順位を時間軸に沿って整理します。
まだ退職日まで時間がある場合
本人がいるうちにしかできないことがあります。 限られた時間は、ファイルを見れば分かることではなく、本人に聞かないと絶対に分からないことに使ってください。
優先度1: 鍵と入り口をすべて回収する
これを最優先にしてください。失うと後から取り戻せません。
- 各種のパスワード(システム、データベース、サーバ、共有フォルダ)
- Excel のマクロやシートにかかっているパスワード
- 外部サービスの管理画面(ドメイン、レンタルサーバ、メール、クラウド)
- 個人のメールアドレスで登録されているサービスがないか
- ソフトウェアのライセンス証書、インストール用のディスクやファイル
- 取引していた業者の連絡先と担当者名
4番目は特に見落とされます。ドメインの更新通知やサーバの契約が退職者の個人アドレスにしか届いておらず、1年後に失効して初めて発覚する、という事故は珍しくありません。
優先度2: 「本人しか知らないこと」を聞き取る
コードを読めば分かることは後回しで構いません。聞くべきはこちらです。
- いつ動かすか。毎日か、月末か、締め日か。時間帯の決まりはあるか
- やってはいけない操作はあるか。「この順番で押さないと壊れる」といった暗黙のルール
- 止まったとき、過去にどう対処したか。再起動で直る、特定のファイルを消す、など
- 調子が悪くなる前兆はあるか(動作が遅くなる、特定の曜日に失敗する)
- 「実はこれは仮対応のまま」という箇所はどこか
- 本人が「一番不安に思っていること」は何か
最後の質問は必ずしてください。作った本人は、どこが危ういかを必ず知っています。聞かれなければ言わないだけです。
優先度3: 実際に動かしてもらい、記録する
説明を聞くのではなく、いつも通りに操作してもらい、その様子を記録してください。 画面を録画できるならそれが最良です。難しければ、操作の順に画面を写真に撮り、番号を振るだけでも十分です。
口頭の説明では、本人にとって当たり前すぎる手順が抜け落ちます。「毎朝このファイルを開いてから実行する」といった前提が、まさにその抜け落ちる部分です。
優先度4: 本人と一緒に、資産の置き場所を確認する
- ファイルの原本はどこにあるか。同じものが複数の場所にコピーされていないか
- バックアップは誰がどこに取っているか。戻したことはあるか
- その人のパソコンの中にしかないファイルはないか
- 個人の USB メモリや外付けドライブに入っているものはないか
3番目は特に重要です。「共有フォルダにある」と思っていたものが、実は本人のパソコンにしかなかった、というのはよくあります。 退職時にパソコンが初期化されると、そこで失われます。
すでに辞めてしまった場合
時間がない状況です。順番を守ってください。
手順1: まず「壊さない」(当日中に)
理解しようとする前に、現状を保全します。
- 関係するファイルをすべてコピーし、日付を付けて別の場所に保管する
- そのコピーは読み取り専用にし、以後は絶対に開かない
- 退職者のパソコンが残っているなら、初期化を止める
- 可能なら、そのパソコンの状態をまるごと保存しておく
- 本番のファイルを「調べるために開く」ことも、この段階では避ける
理解は後からいくらでもできますが、失われたファイルは戻りません。最初の1日でやるべきことは、これだけです。
手順2: 動いているものを止めない
稼働中のシステムに対して、この段階で設定を変えたり整理したりしないでください。「使っていなさそうなファイルを消す」「フォルダを整理する」は、中身が分かるまで待ってください。
古いシステムは、一見無関係なファイルに依存していることが日常的にあります。整理したことが原因で止まると、原因の特定は困難になります。
手順3: 使っている人から聞き取る
作った人はいなくても、使っている人は残っています。 その方々が持っている情報は、想像よりずっと多いはずです。
- いつ、どの画面で、何をしているか(実際に操作してもらう)
- エラーが出たことはあるか。そのときどうしたか
- 前任者から「これだけは」と言われていたことはあるか
- ここ数年で変わったことはあるか(税率、取引先、帳票の様式)
手順4: 業務が止まったときの代替手段を決める
中身を理解するより先に、これを決めておいてください。
- 止まった場合、どの業務がどこまで止まるか
- 手作業で代替できるか。できるなら、その手順を誰が知っているか
- 何日まで止まっても事業が回るか
ここが決まっていれば、実際に止まったときに慌てずに済みます。そしてこの整理は、外部に相談する際の最も重要な情報にもなります。 「いつまでに復旧が必要か」が分からないと、適切な提案ができません。
手順5: そのうえで、中身を調べる
ここでようやく中身の話になります。優先して知るべきは、コードの詳細ではなく「何に依存しているか」です。
- どのサーバ、どの共有フォルダ、どのパソコンを前提にしているか
- 外部のシステムやサービスに接続していないか
- 特定の1台でしか動かない部分はないか
ここが分かれば、「何が起きたら止まるか」が分かります。それが分かれば、優先して手を打つべき箇所も決まります。
落ち着いたら、二度目を防ぐ
最も重要なのはここです。担当者の退職でこれだけ困ったということは、今の状態を放置すれば、次の担当者のときにも同じことが起きます。
必要なのは、完璧な設計書ではありません。次の3つがあれば、属人化の度合いは大きく下がります。
- 操作手順の記録 — 誰が読んでも同じ操作ができるもの。写真と番号で十分
- 依存先の一覧 — どのサーバ、どのフォルダ、どのパソコンが必要か
- 止まったときの連絡先と代替手順 — 誰に連絡し、その間どう回すか
この3つは、システムを作り直さなくても作れます。そして作り直しに比べれば、費用は桁違いに小さく済みます。
「担当者が辞めるからシステムを作り直す」という判断は、問題の切り分けを誤っています。属人化はシステムの問題ではなく、記録が残っていないことの問題です。作り直しても、記録を残さなければ同じことが起きます。
調査と、引き継ぎ資料の作成をお引き受けします
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