「作り直すべきか、延命すべきか」の判断基準
古い社内システムをどうするか。この判断は、たいてい次のような形で迫られます。
- 業者に相談したら「そろそろ作り直しましょう」と言われた
- 見積を見たら数百万円だった
- とはいえ、今のままで不安があるのも事実だ
私は延命を請け負う立場ですが、すべてを延命すべきだとは考えていません。 作り直した方が結果的に安く済む場合は確実にあります。問題は、その判断が感覚と、相談した相手の立場で決まってしまいがちなことです。
ここでは、判断を分ける具体的な条件を挙げます。
先に整理: この判断は「二択」ではない
まず、選択肢は2つではありません。実際には少なくとも4つあります。
| 選択肢 | 実態 |
|---|---|
| そのまま延命 | 動かなくなった原因だけを直し、あとは触らない。費用は最小 |
| 延命 + 属人化の解消 | 動かし続けながら、資料を整えて誰でも触れる状態にする。実務上はこれが最も多い正解 |
| 部分的な置き換え | 問題のある部分だけを新しくし、残りは今のまま使う |
| 全面的な作り直し | 費用も期間も最大。業務そのものを見直す機会にもなる |
「作り直すか、このままか」と考えると極端な二択に見えますが、実際には間に段階があります。まずこれを押さえてください。
延命が正解になりやすい条件
次に当てはまるほど、延命の方が合理的です。
1. 業務のやり方が、当分変わらない
最も重要な条件です。システムを作り直す本当の理由は、業務が変わったときです。 今の業務のやり方が今後も続くなら、今のシステムはその業務に合っています。作り直しても、出てくるものは今と同じ動きをするものです。
2. 使っている人が限られていて、増える予定がない
5人で使っていて、これからも5人。そういう状況なら、今の仕組みが抱える性能上の制約は問題になりません。
3. 止まっても、手作業で代替できる
1日止まっても、その日は手作業で回せる。そういう業務なら、リスクの大きさは限定的です。逆に、止まった瞬間に出荷が止まるような業務は、条件が変わります(後述)。
4. データの持ち方に無理がない
件数が数万件程度で、増え方も緩やか。この規模なら、Excel や Access のままで十分に動きます。
5. 作り直しの見積が、年間の維持費の5年分を超える
費用の観点です。作り直しに300万円かかり、延命の維持費が年20万円なら、 15年分に相当します。その間に業務のやり方が一度も変わらない可能性は低いので、作り直したものが陳腐化する方が先です。
作り直しを検討すべき条件
逆に、次に当てはまる場合は、延命が最善とは限りません。私は調査の結果これらに該当すれば、はっきりそう申し上げます。
1. 業務のやり方が変わった、または変わる予定がある
インボイス制度への対応、取引先の要求する帳票の変更、事業の統廃合。こうした変化に今のシステムが追随できない場合、延命は「合わないものを維持し続ける」ことになります。
2. 止まると即座に事業が止まり、かつ復旧手段がない
出荷、請求、給与。止まった瞬間に事業が止まる業務で、かつ特定の1台のパソコンでしか動かないという状態は危険です。
ただしこの場合でも、いきなり作り直す必要はありません。まず「1台依存を外す」ことが最優先で、それだけで危険度は大きく下がります。作り直しはその後で落ち着いて検討できます。
3. データが壊れ始めている
「たまに数字が合わない」「特定の操作をすると異常終了する」「ファイルサイズが異常に大きい」——これらはデータ側に問題が出ている兆候です。
この状態での延命は、壊れたものを維持することになります。ただし多くの場合、データの整理と修復で対応でき、システムそのものを作り直す必要まではありません。
4. 法令上の要求を満たせない
個人情報の取り扱い、電子帳簿保存法への対応、取引先から求められるセキュリティ要件。これらを今の仕組みで満たせない場合は、対応が必要です。
5. ライセンス上、もう使えない
使っている部品やツールのライセンスが失効していて、新しいパソコンに入れられない。この場合、延命の手段そのものが断たれます。
判断を誤らせる、よくある思い込み
「古いから危険だ」
古さそのものは危険ではありません。危険なのは、 中身が誰にも分からないことと、特定の環境に依存していることです。 20年前に作られていても、中身が分かっていて依存が少なければ、安定した資産です。
「作り直せば保守が要らなくなる」
新しく作ったものにも保守は必要です。むしろ稼働直後は不具合が集中します。「作り直せば手離れする」という前提での判断は、後で必ず食い違います。
「今の担当者が辞めるから作り直すしかない」
担当者の退職は、属人化の問題であってシステムの問題ではありません。 作り直しても、資料を残さなければ同じことが起きます。 この場合に必要なのは、作り直しではなく引き継ぎ資料の整備です。費用は桁が違います。
「見積を出してもらったから、あとは決めるだけ」
中身を調べずに出された作り直しの見積は、ほぼ必ず外れます。今のシステムが何をしているか分からないまま「同じものを作る」見積は出せないからです。 その見積には、調査の費用が含まれていますか。 含まれていなければ、着手後に必ず増額の話が出ます。
判断に必要な材料
上の条件に照らすには、いくつか事実を把握している必要があります。最低限、次が分かれば判断できます。
- 今のシステムが、どの環境に依存しているか(サーバ名、フォルダ、特定のパソコン、古い部品)
- その依存を外すのに、どのくらいの作業が必要か
- 止まったときに、業務がどこまで止まるか
- 今後1〜3年で、業務のやり方が変わる予定があるか
- 触れる人が何人いるか
このうち上2つは、中身を調べないと分かりません。下3つは社内で答えが出ます。 先に下3つを整理しておくと、調査の結果と突き合わせるだけで判断できます。
「今は延命、3年後に作り直す」も正解のひとつ
見落とされがちですが、これは有効な選択肢です。
今すぐ数百万円を出せない、あるいは業務の変化が読めない。そういう状況で無理に決めるより、まず止まらない状態を作り、その間に作り直しの検討を進める方が、判断の質は上がります。
延命にかかる費用は作り直しに比べて桁が小さいので、「時間を買う」費用としては十分に見合います。そして延命の過程で作られる資料は、そのまま作り直しの仕様書として使えます。 無駄にはなりません。
判断材料の部分を、お引き受けします
「どの環境に依存しているか」「触ると壊れる確率はどの程度か」を調査し、根拠つきの報告書にまとめます。作り直しが妥当と判断した場合は、そのようにお伝えします。初回調査 5万円(税別)、ご発注いただいた場合は改修費から全額差し引きます。
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